やまなし伝統工芸館

登録日:2011/11/22 10:36:46

工芸館ニュース(伝統技術守り、新たな需要を・甲州手彫り印章)

カテゴリ 産業  

やまなし伝統工芸館ニュース

毎日新聞社 毎日jp 11月13日(火)より

追跡・発掘:判子職人と問屋がタッグ 伝統技術守り、新たな需要を /山梨

 ◇注文システムや新商品開発

 山梨有数の地場産業として知られる印章。かつて甲府市北部が印章の原料となる水晶の一大産地だったことから発展した。熟練の職人が作り上げる「甲 州手彫印章」は「甲州水晶貴石細工」「甲州印伝」と並ぶ経済産業省認定の伝統工芸品だ。近年、機械化による安価品やIT化に伴って苦境が続くが、一体と なって産業を支えてきた職人と卸問屋は「伝統技術を残し、新たな需要を開拓したい」と模索と挑戦を続けている。【春増翔太】

 「判子は景気の影響を受けない産業だったんだけどね。ここ数年は悪くなる一方だ」。甲府市相生2の印章卸問屋「モテギ」社長の茂手木寛さん(62)はため息を漏らす。

 全国の同業者でつくる「全国印判用品卸商工組合連合会」会長も務める茂手木さんと先代社長の父勇さん(82)によると、08年秋の不況以来、全国の判子店は毎年500軒ペースで減少。山梨県印章店協同組合の加盟店も最多時の120店から今は30店ほどだ。

 大きな原因は、IT化と不況による高級品の需要低下だ。茂手木さんは、インターネットの台頭や手続き簡素化のため、行政や商業取引の場面で押印の機会が減ったと指摘する。勇さんも「昔は『部長になったから課長の時より良い判子を』となったんだけどな」と話す。

 拍車をかけたのが、70年代前半に始まった機械化だ。判子職人や卸問屋とのルートを持たないフランチャイズ店やインターネット販売業者が増え、価 格は急速に低下。「今や100円ショップで何百種もの名字の判子が売られている」(茂手木さん)。こうした状況が、職人を苦境に追い込んでいる。70年ご ろに400~500人いた県内の印章職人は、今や100人ほどだという。

 職人歴48年の佐野玄武さん(68)=同市大里町=は「安価品に釣られて高級品の価格も下がり、今は完全手作りの仕事は割に合わない」とこぼす。佐野さんの仕事からも完全手彫りは少なくなり、今は、機械では不可能な文字デザインと最後の手仕上げが中心だ。

 そこで、茂手木さんは「職人が十分に食べていけるだけの値段と仕事量を、我々問屋が保つことが、職人と技術を守ることになる」と、昨年から新たな 取り組みを始めた。茂手木さんと契約した判子店なら、いつでも佐野さんら3人の職人が作る6段階の高級品を注文できるシステムで、現在、契約店舗は全国で 6店ある。佐野さんも「職人は売り方が分からない。問屋さんに仕事を持って来てもらえれば、後継者も育つ」と期待する。

 一方で、茂手木さんは「新たなニーズを開拓する必要もある」と、約10年前から、人気キャラクターをデザインした低年齢層向けの商品などの販売も 開始。地元の宝飾ブランドと提携し純銀を使った商品や、印材を加工したビーズでブレスレットを作るなど、さまざまな試みを続けている。「印章は伝統ある地 場産業。職人が作る『一生もの』の判子を守りつつ、新たな商品の開発で生き残っていきたい」

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